Wednesday, December 13, 2017

映劇 映画日記 その1 ひいくんのあるく町(ネタバレあり)

           (コトバヤ、タカハシさんのスタンプ)

 ありふれた田舎町。シャッターが目立つ商店街。お祭りのときだけちょっと賑わう、そんな地域。日本全国どこにでもありそうな町、市川大門がこの映画の舞台。ひいくんは毎日そんな町を歩く。ザッザッと独特な足音を立てて。なぜか白いヘルメットを被って。ショッピングッセンターや個人商店、果ては誰かの家にまで出かけて行って、頼まれもしないのに手伝いをする。道端でタバコを吸って暇そうにしているおじさんたちと話をする。多くの人がこの町を後にしたが、ひいくんはどこにも行かない。この町にいる。
  映画はそんな町とひいくんの日常を淡々と追ってゆく。ひいくんの目線から見た町を追体験することによって、観客は「落ちぶれた」「衰退した」というありきたりの形容詞で片付けられてしまいそうな「町」を再発見してゆく。確かに高度成長期のような「繁栄」は失われたかもしれない。でも、経済的な豊かさ以外の「豊かさ」がこの小さな町には息づいている。そこには、寛容で優しい人びとが暮らし、受容的で穏やかな暮らしがある。この映画が新鮮で、静かに観客の心の中に入ってくるのは、「取り残された」町の人たちの悲しみや寂しさも共有しながら、「変なおじさん」ひいくんと一緒に、「故郷」見つめ直す監督青柳拓の視線があるからだろう。
  だからこそ、もう開くことはないと思われていた監督の叔父の店「水口商店」のシャッターが唐突に開けられて、脳梗塞で倒れた叔父さんが、鼻水を垂らしながら嬉し泣きする場面で、観客も思わずもらい泣きそうになるし、「コミュニティスペースとして再活用」という話を聞くと希望が見えた気がするのだ。
 ちょっと大げさに言えば、「市川大門」という小さな世界を通して、「日本の今」という大きな世界も見えてくる。そんなドキュメンタリー。『ひいくんのあるく町』は、今だからこそつくられ、今だからこそ見るべき映画なのだ。「半径3メートル以内に大切なものはぜんぶある」ひいくんは改めてそんなことに気がつかせてくれる。


『ひいくんのあるく町』
上映時間:47
2017年、水口屋フィルム 
(日本映画大学 卒業制作)

監督:青柳拓
プロデューサー:植田朱里
副プロデューサー:熊澤海透
撮影:山野目光政
録音:福田陽


公式ウェブサイト:http://hikun.mizukuchiya.net/

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